
「雨が降る前になるとめまいがする」
「台風が近づくと耳鳴りがひどくなる」
「天気が悪くなると耳が詰まった感じがする」
このような症状はありませんか?
最近では「気象病(きしょうびょう)」や「天気痛」という言葉を耳にする機会が増えました。「気象病」という言葉は広く使われていますが、実は正式な病名ではありません。医学的には、「天候や気圧などの環境変化をきっかけとして、さまざまな症状が現れる状態」をまとめて表現した言葉です。つまり、気象病そのものが一つの病気なのではなく、様々な病気や体質が背景にあり、その症状が天候によって悪化している場合も少なくありません。
実は耳鼻咽喉科では、このような患者さんは珍しくありません。特に、めまい・耳鳴り・耳閉感(耳が詰まった感じ)は、気圧の変化と深く関係していることがわかってきています。
最近は梅雨入りし、台風も近づくこともあったため、体調不良を訴えて当院へ受診されている方も多いです。
今回は、耳鼻咽喉科専門医の立場から、気象病について、気象病と耳との関係・治療法、受診の目安等について簡単に説明いたします。
<気象病とは?>
気象病とは、気圧や気温、湿度などの天候変化によって起こる体調不良の総称です。
代表的なきっかけは
・台風
・梅雨
・秋雨
・急激な気温変化
・低気圧
などです。
症状は人によってさまざまで、
・めまい
・耳鳴り
・耳の詰まり感
・頭痛
・首や肩のこり
・倦怠感
・吐き気
などがみられます。
耳鼻咽喉科では、特に「めまい」「耳鳴り」「難聴」「耳閉感」を主訴に受診される患者さんが多くいらっしゃいます。
気象病は、「内科では?」「整形外科では?」と思われる方もいらっしゃいます。もちろん、症状によって受診した方が良い診療科は変わってきますが、上記のような症状がある場合は耳鼻咽喉科が最も重要な診療科の一つになります。
<なぜ天気で耳の症状が起こるのでしょうか?>
近年の研究では、「内耳」が気圧変化を感じるセンサーとして働いている可能性が示されています。
内耳は、
・音を聞く(蝸牛)
・バランスを取る(前庭)
という非常に重要な役割を担っています。
この内耳が気圧変化を感知すると、その情報が脳へ伝わり、自律神経にも影響を及ぼすと考えられています。
その結果、
・めまい
・耳鳴り
・耳閉感
・頭痛
などが出現すると考えられています。
現在では、動物実験において内耳に気圧感受機構(気圧センサー)が存在する可能性が示されており、TRPV1・TRPV4というイオンチャネルが関与する可能性も報告されています。
<気象病で耳鼻科に多い症状>
① めまい
比較的多い症状です。
・フワフワする
・地面が揺れる
・グルグル回る
・頭が重い
など、人によって症状はさまざまです。
特にメニエール病や前庭性片頭痛では、低気圧で症状が悪化する患者さんが少なくありません。
② 耳鳴り
「キーン」「ジー」「ゴー」といった耳鳴りが低気圧で悪化する方もいます。
天候が回復すると自然に軽くなることもあります。
③ 耳閉感(耳が詰まった感じ)
飛行機に乗った時のような「耳が詰まった感じ」を訴える患者さんも多くみられます。
耳管機能や内耳圧の変化が関係していると考えられています。
④ 難聴
気圧変化によって
・メニエール病
・急性低音障害型感音難聴
の症状が悪化することがあります。
聞こえが急に悪くなった場合は、単なる気象病と思い込まず、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診してください。
<気象病になりやすい人>
次のような方は気象病が起こりやすいとされています。
・女性
・20〜50代
・片頭痛がある
・メニエール病の既往がある
・睡眠不足
・ストレスが多い
・疲労が蓄積している
・自律神経が乱れやすい
気圧だけでなく、「疲れ」や「睡眠不足」が重なることで症状が強く出ることも少なくありません。
<気象病の治療>
残念ながら、気象病そのものを治す特効薬はありません。しかし、症状を軽減することは十分可能です。
① 規則正しい生活
もっとも重要なのは自律神経を整えることです。
・十分な睡眠
・朝日を浴びる
・適度な運動(軽いウォーキング)
・規則正しい食事
・水分補給
・長時間のスマートフォンやパソコン作業を控える
これらが基本になります。
「天気が悪くなる前日は早めに寝る」「疲れをためない」といった工夫だけでも、症状が軽くなる患者さんは少なくありません。
② 原因となる病気を治療する
気象病と思っていても、
・メニエール病
・良性発作性頭位めまい症
・前庭性片頭痛
・急性低音障害型感音難聴
などが隠れていることがあります。
耳鼻咽喉科では、聴力検査や平衡機能検査などを行い、原因を調べますので、近くの耳鼻咽喉科へお気軽にご相談ください。
③ 薬物療法
症状に応じて
・抗めまい薬
・漢方薬(五苓散、苓桂朮甘湯など)
・制吐薬
・偏頭痛治療薬
などを使用することがあります。患者さんごとに最適な治療法は異なります。
<気象病と思っても早めに受診すべき症状>
次の症状がある場合は、気象病だけではない可能性があります。
・強い回転性めまい
・突然聞こえが悪くなった
・激しい耳鳴り
・顔や手足のしびれ(注意)
・ろれつが回らない(注意)
・激しい頭痛(注意)
・意識障害(注意)
これらは脳卒中や突発性難聴など緊急性の高い病気の可能性があるため、早めに医療機関への受診が必要です。特に「(注意)」としている症状は急いで救急病院へ受診しましょう。
<よくある質問(Q&A)>
Q. 気象病は耳鼻科で診てもらえますか?
はい。
めまい、耳鳴り、耳閉感、難聴がある場合は、耳鼻咽喉科が最も適した診療科の一つです。
Q. 気象病は治りますか?
完全に治るとは言えませんが、生活習慣の改善や適切な治療によって症状を軽減できる方は多くいます。
Q. 雨の日だけ症状が出ます。
症状日記や気圧アプリを活用し、天候との関連を記録すると診断や治療に役立ちます。
<最後に…>
気象病は決して「気のせい」ではありません。一方で、すべての症状を気象病だけで説明できるわけではありません。
特に、繰り返すめまい、耳鳴り、耳閉感、難聴がある場合には、メニエール病や急性低音障害型感音難聴など、治療が必要な病気が隠れていることがあります。
「天気が悪くなると毎回調子が悪い」と感じる方は、一度耳鼻咽喉科で相談してみることをおすすめします。
早めに原因を調べることで、症状を軽くし、日常生活の質を改善できる可能性があります。
<引用文献・参考文献>
Sato T, et al. Auris Nasus Larynx. 2020.
Yamamoto Y, et al. Journal of Vestibular Research. 2019.
めまいの診断・治療ガイドライン 2024