補聴器
“聞こえ”を整えることが“脳”を守る〜耳鼻咽喉科での補聴器外来について〜
最近以下のようなことが多くなっていませんか?
  • 最近、家族に“テレビの音が大きいよ”と言われるようになった
  • 会話中に聞き返すことが増えた
  • 聞き間違えが増えた
  • 会話をしているときに声が大きいと言われた
  • 体温計や電子レンジなど高い電子音が聞き取りにくくなってきた
  • 後ろから話しかけられると気付かないことが増えた
聞こえづらさは少しずつ進行するため、自分では気づきにくいものです。
でも、放っておくと“聞こえる力”だけでなく、“理解する力”まで低下してしまうことがあります。研究では、難聴のある高齢者は、正常な聴力の方に比べて認知症の発症リスクが約2倍高いことが示されています(Livingston et al., Lancet, 2020)。ただし、補聴器を使うことで、そのリスクが下がる可能性も報告されています(JAMA Neurology, 2023)。
聞こえを整えることは、単に「音を大きくする」だけでなく、“脳と心の健康を守るケア”でもあります。
まずは耳鼻科で、耳の状態と聞こえのチェックを受けてみましょう。

補聴器診療の流れ

問診・耳の診察
耳垢や炎症などの“補聴器が効かない原因”を除外します。
聴力検査
純音聴力検査(聞こえの検査)・語音聴力検査(言葉の聞き取りの検査)などを行い、難聴のタイプや聞こえの現状を評価します。補聴器を使用することで効果が期待できるか評価します。
補聴器試聴・相談
補聴器使用による効果が期待でき、補聴器試聴(補聴器を試しに使ってみること)の希望があれば、聴器についてのカウンセリングを行い、補聴器技能士により機器選定などを行います。
※当院の補聴器外来は完全予約制です。
装用後の調整・フォロー(補聴器外来)
普段の生活の中での聞こえを確認し、補聴器の微調整を重ねていきます。
数ヶ月の試聴を経て、補聴器の効果が充分であり、補聴器購入を希望されれば、担当業者より補聴器を購入いただきます。当然、効果を実感できない場合は、補聴器を返却していただいて結構ですのでご安心ください。
聞こえにくさを放っておくと、会話の機会が減り、脳への刺激も少なくなります。
「まだ大丈夫」と思わず、まずはお気軽に耳鼻咽喉科へご相談ください。当院では、聴力検査から補聴器の試聴・調整・アフターケアまで、専門スタッフが丁寧にサポートいたします。

聞こえと脳のトレーニング

補聴器はメガネと違い、補聴器を買ってからも非常に大切です。
補聴器を使って「聞こえと脳のトレーニング」が必要!と考えてください。
補聴器に耳垢が詰まっていないかなど補聴器のメンテナンスのために定期的な受診も必要ですが、定期的な調節が必要です。
定期的な調整が必要である理由は、難聴の方は聞こえない状態に慣れてしまっています。つまり、あまり周囲の音が聞こえない静かな状態に耳も脳も慣れています。ですので、いきなり通常の会話にとって適切な大きさまで音量を上げると「うるさい!」と言って使用しなくなります。従いまして、少しずつ時間をかけて補聴器を調節することで、脳と耳を「トレーニング」して聞こえる状態に慣れてもらう必要があります。
調整が済んだとしても定期的な調整・メンテナンスは必要になります。

よくある質問Q&A

補聴器は耳鼻咽喉科で診てもらう方が良いの?
まずは耳鼻咽喉科で原因を確認することが大切です。耳鼻咽喉科であれば、専門の医師が診察や検査を通じて原因を確認したうえで、必要に応じて補聴器を提案することができます。聞こえが悪くなる原因として、耳垢が詰まっていたり、中耳炎など他の原因も考えられ、これらは治療により改善するためです。当然、補聴器が効かない原因があれば補聴器をお勧めすることはございません。また、定期的なフォローを行い、聞こえの変化に応じて対応していきます。また、当院では補聴器相談医(日本耳鼻咽喉科学会認定)が対応しておりますので、医療費控除の対象とすることができます。
補聴器を使うと聞こえが悪くなると聞いたけど?
適切に調整した補聴器を使用していれば補聴器が原因で聴力が悪化することはありません。しかし、調整がうまくできていない場合や、適切に使用していない場合は悪影響になる場合がありますので、定期的なチェック・調整をしましょう。むしろ、音や言葉の刺激を脳に届け続けることで、「聞き取る力」を維持しやすくなるといわれています。一方で、聞こえない状態を放置すると、音の刺激が減って脳の音声処理能力が低下し、結果として「聞こえても理解しにくい」状態になることがあります。補聴器は「耳のリハビリ」のようなものです。正しい調整と使い方で、脳と耳を一緒にトレーニングしていきましょう。
補聴器は何歳から使えば良い?
加齢性難聴は少しずつ始まり、65歳以上では約3人に1人が聞こえづらさを感じているというデータもあります。実際は年齢ではなく、聞きにくさを感じた時、聞き返しが多くなってきた時、聞き間違いが増えてきた時が補聴器を検討するタイミングです。ここで問題は、加齢性の難聴は少しづつ進行するため、本人が自覚していないことが多いです。少しでも難聴かも?と思った時は、耳鼻咽喉科にご相談ください。
補聴器をつけたらすぐに聞こえる?
眼鏡とは異なりすぐによく聞こえる状態になるわけではありません。聞こえが悪い方は、聞こえない状態(静かな状態)に慣れてしまっていますので、音が聞こえる状態になれる必要があります。聞こえる状態に慣れるのにある程度の時間がかかることが多いですが、当院では補聴器適合検査を行いながら、最適な聞こえの状態を確認しながら調整を行なっています。また、補聴器の着脱も慣れが必要ですので、ご家族や周囲の方のサポートも重要になります。
補聴器をつけたら雑音が気になるのはなぜ?
補聴器はただ「音を大きくする」だけでなく、「周囲の音全体を拾う」機器です。そのため、初めて使うと、今まで聞こえていなかった生活音(食器の音、エアコンの音、車の音など)が目立って感じることがあります。これは補聴器の故障ではなく、耳と脳が“新しい音の環境”に慣れていないだけです。多くの方は、時間と共に慣れてきます。また、最近の補聴器には「雑音抑制機能」や「指向性マイク(話し声を優先する機能)」が搭載されており、専門家が調整することで聞きやすく改善できます。違和感を感じた場合は我慢せず、必ず調整にお越しください。
両耳使用した方が良いの?
基本的に両耳での使用をおすすめします。人は本来、両耳で音を聞き分けており、左右の耳が協力して「音の方向」や「言葉の明瞭さ」を感じ取っています。片耳だけに補聴器をつけると、反対側からの声が聞き取りにくくなり、雑音の中で会話が難しくなることがあります。ただし、左右の聴力差が大きい場合や耳の状態によっては片耳装用を選ぶこともあります。
補聴器は必要な時だけで良い?どのくらい使用したら良いの?
補聴器はとにかく「慣れ」がとても大切です。使えば使うほど、耳と脳が脳が音に慣れ、聞き取りやすくなります。
補聴器を「必要な時だけ」使用するのはお勧めできません。人の脳は、日常的に音や言葉の刺激を受けることで“聞き取る力”を維持しています。必要な時だけ(人と話す時だけ、テレビの時だけ)補聴器をつける使い方では、音の情報が断続的にしか脳に届かず、聞き取りのリハビリ効果が弱くなってしまいます。 “なるべく毎日・長時間つける”ことが大切です。「疲れない範囲で、朝から夕方まで」など、生活リズムの中に自然に組み込むように補聴器を続けて使用しましょう。
補聴器は高いと聞いたけど?高い方が良いの?
補聴器の価格の違いは主に「音質」「自動調整機能」「雑音抑制」「Bluetooth対応」などの機能差によるものです。ただし、「高ければ良い」というわけではありません。生活環境(静かな室内が多い、人と話す機会が多いなど)や予算に合わせて、聴力と生活に合った機種を選ぶことが一番大切です。補聴器相談医や認定補聴器技能者のもとで試聴して、自分に合う補聴器を見つけましょう。また、医療費控除や自治体の補助制度が利用できる場合もあります。
補聴器購入の時に補助金などあるの?
聞こえが悪く、ある一定以上の聴力障害がある場合、身体障害者手帳(聴覚障害)が交付される場合があります。この手帳が交付されている場合や18歳未満のある一定上の難聴者に対しては公的助成制度を使用できることがあります。
更に、当院のように補聴器相談医が作成する「補聴器適合に関する診療情報提供書」を添えて購入した場合、補聴器代が医療費控除の対象になることがあります(家電量販店などで自由購入した場合は対象外)。
補聴器は健康保険で買えるの?
一般的に、補聴器の購入には健康保険は使えません。それは、補聴器が「治療用の医療機器」ではなく、「日常生活を補う福祉用具」と位置づけられているためです。ただし、助成・公費・医療費控除対象となるケースもあるため、耳鼻咽喉科やお住まいの自治体へご相談ください。