
「予防接種に行くよ」と伝えただけで泣いてしまう……。
特に小さなお子さんでは、ワクチンそのものよりも「注射が怖い」ということが、予防接種の大きなハードルになることがあります。
しかし最近では、「ワクチン=注射」ではなくなってきています。
現在、日本でもインフルエンザワクチンには、従来の注射タイプだけでなく、鼻からシュッと噴霧する「フルミスト®︎」という選択肢があります。当院でも日本で承認された当初から接種を行なっております。
そして世界では、そのさらに先の技術として、皮膚に貼って接種する「貼るワクチン」の研究も進んでいます。
今回の記事では、「注射をしないワクチン」についてご紹介します。

フルミスト®︎は、鼻の中へ噴霧するタイプのインフルエンザワクチンです。
左右の鼻にワクチンを噴霧して接種するため、通常のインフルエンザワクチンのように注射針を刺す必要がありません。
日本で接種開始になり今年で3年目を迎え、まだまだ馴染みがない方もいると思いますので、以前にも投稿しましたが、再度フルミスト®︎につてご説明します。
フルミスト®︎は、2003年からアメリカ、2012年からEUで承認され長年に渡って使用されてきたインフルエンザの弱毒生ワクチンです。日本でようやく承認され2024年から使用可能になりました。
フルミスト®︎は、「弱毒生ワクチン」であることと経鼻接種であることから、インフルエンザが感染する経路と同様であるため、重症化予防効果のみならず感染予防効果も高いと期待できます。
なぜ経鼻接種が良いかというと、注射ではなく経鼻で投与することで、インフルエンザウイルスが感染する鼻咽腔の粘膜でIgA抗体ができます。このIgA抗体のおかげで、鼻咽腔の粘膜からウイルスが体内に入らないようにするので感染予防効果が高いと期待できます(注射ではIgA抗体はできません)。
最大の特徴は、なんといっても「注射をしなくてよい」ということです。
毎年インフルエンザワクチンの注射を怖がってしまうお子さんにとって、大きなメリットがあります。
フルミスト®︎には、以下の特徴があります。
・注射針を使用しない
・注射による痛みがない
・左右の鼻に噴霧するだけで接種できる
・1回の接種で完了する(注射との併用は基本的に不可)
・1シーズン持続する
研究では、IgGという免疫グロブリンが360日後も有意に高かったというデータがあります。
・注射製剤と有効性に差はない
海外データになりますが、小児においてフルミスト®︎と注射製剤では有効性に差がありませんでした。
特に「注射がどうしても苦手」「普段のインフルエンザワクチンで腕が腫れる方」というお子さんでは、選択肢の一つになります。
一方で、すべてのお子さんがフルミスト®︎を接種できるわけではありません。
年齢や体調、基礎疾患、免疫状態、使用している薬剤などによっては、従来の注射ワクチンの方が適している場合があります。
また、接種後には鼻水・鼻づまり・咳・のどの痛み・発熱などがみられることがあります。
「注射とフルミスト®︎のどちらがよいか」については、お子さんの年齢や体調などを考慮して選択することが大切です。
フルミストの短所は以下の通りです
・年齢制限があり、日本では2歳以上〜18歳以下が適応になります
・ワクチン接種後に風邪様症状(鼻汁、鼻閉、咳など)が約半数の方にでます
・接種後1週間程度はインフルエンザの検査で陽性になる
・弱毒生ワクチンのため制限がある(他の生ワクチンの接種は27日以上間を空ける必要がある)
・1回当たりの接種費用が高い
・号泣している子供、アレルギー性鼻炎などで鼻汁・鼻閉がひどい方はワクチンが到達できず、効果が減弱する可能性があります。しかし、当院は耳鼻科ですので、必要に応じて鼻処置を行い、接種することが可能です!!
当院においてフルミストを摂取できない方は以下の通りです
・1歳以下、19歳以上の方
・体温が37.5℃以上の方
・重篤な急性疾患にかかっている方
・過去1年間に喘息発作を起こした方、5歳未満の喘息治療中の方
・過去にインフルエンザ予防接種やその他の原因でアナフィラキシーを起こした方
・明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する方及び免疫抑制をきたす治療を受けている方
・妊娠中の方
・授乳中の方
・ご家族に免疫不全の方がおられる方
・その他、医師が予防接種を受けることが不適当と判断した方
・号泣している方、鼻症状が強い方

さらに現在、世界で研究開発が進められているのが、「貼るワクチン」です。
「ワクチンを皮膚に貼るだけで、本当に免疫がつくの?」
と思われるかもしれません。
実際には、普通の絆創膏とは少し違います。
・とても小さな針「マイクロニードル」を使います
貼るワクチンの多くでは、マイクロニードル(micro-needle)と呼ばれる非常に小さな針が使われています。
パッチの表面には、肉眼では分かりにくいほど小さな針がたくさん並んでいます。
これを皮膚に押し当てることで、ワクチンの成分を皮膚の浅い部分へ届けます。
通常の注射針のように深く刺す必要がないため、痛みや注射への恐怖を軽減できる可能性があります。
・「貼るワクチン」はもう人でも研究されています
「まだ動物実験の段階なのでは?」と思われるかもしれませんが、すでに人を対象とした臨床試験まで進んでいます。
特に研究が進んでいるものの一つが、麻疹・風疹(MR)ワクチンです。
2024年に医学誌『The Lancet』に報告された臨床試験では、成人だけでなく、9~10か月の乳児や15~18か月の幼児にもマイクロニードルパッチを用いたMRワクチンが投与されました。
従来の注射によるワクチンと比較して、良好な免疫反応が確認されています。
また、インフルエンザワクチンについてもマイクロニードルパッチを用いた臨床研究が行われています。
つまり、「貼るワクチン」は単なる空想の技術ではなく、実用化を目指して研究が進んでいる段階なのです。
・貼るワクチンが実用化されると何が変わる?
貼るワクチンには、単に「注射が痛くなくなる」だけではなく、以下のメリットが期待されています。
・通常の注射針が不要になる
・針刺し事故を減らせる
・使用済み注射針などの医療廃棄物を減らせる
・製品によってはワクチンの輸送や保管を簡単にできる可能性がある
・接種手技を簡略化できる可能性がある
さらに将来的には、製品や制度によっては医療機関以外での接種や自己接種につながる可能性も研究されています。
ただし、2026年現在日本で一般的に接種できるワクチンではありません。
大規模な臨床試験、安全性の確認、大量生産や品質管理、各国での承認など、実用化までにはまだクリアしなければならない課題があります。
以前は「ワクチンを受ける=注射をする」というのが当たり前でした。
しかし現在は、
注射するワクチン
↓
鼻から噴霧するワクチン「フルミスト®︎」
↓
将来は皮膚に貼る「マイクロニードルワクチン」?
と、ワクチンの投与方法そのものが変わり始めています。
特に小さなお子さんにとって、注射への恐怖や痛みが少なくなることは大きなメリットです。
将来、「今年のワクチンは、注射にしますか? 鼻にしますか? それとも貼るタイプにしますか?」と選べる時代が来るかもしれませんね。
まだ「貼るワクチン」は研究開発段階ですが、ワクチン接種をより簡単に、より受けやすくする技術として今後の発展が期待されています。
Adigweme I, et al. Lancet. 2024
Rouphael NG, et al. Lancet. 2017
Baker B, et al. Vaccines (Basel). 2023
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