
「インフルエンザになってタミフルを飲みました。ワクチンの注射はいつから打てますか?」
「イナビルを吸入した後でも、フルミストはできますか?」
インフルエンザが流行する時期になると、このようなご質問をいただくことがあります。
実は、インフルエンザ治療薬を使用した後のワクチン接種は、「注射のインフルエンザワクチン」と「点鼻ワクチンのフルミスト®︎」では考え方が異なります。
特にフルミストでは、使用した抗インフルエンザ薬によって、接種まで一定期間空ける必要があります。
今回は、インフルエンザの治療後にワクチンを接種する場合、どのくらい間隔を空ければよいのかについて解説します。
大きなポイントは、注射か点鼻ワクチンかです!
注射のインフルエンザワクチン
→ 抗インフルエンザ薬による接種間隔は原則必要ありません
フルミスト®︎(点鼻ワクチン)
→ 抗インフルエンザ薬の種類によって一定の間隔が必要です
それでは、なぜこのような違いがあるのでしょうか?
一般的な注射のインフルエンザワクチンは「不活化ワクチン」です。
接種したワクチンのウイルスが体内で増殖するわけではないため、タミフルやイナビルやゾフルーザなどの抗インフルエンザ薬を使用しても、ワクチンのウイルスの増殖が抑えられて効果が弱くなるという問題は基本的にありません。
そのため、抗インフルエンザ薬を使用したことだけを理由に、注射のワクチンを何日間も延期する必要は原則ありません。
ただし、以下のような症状がある場合には、ワクチン接種を急ぐ必要はありません。
・まだ発熱している
・強い倦怠感が残っている
・食事や水分が十分にとれない
・全身状態がまだ回復していない
インフルエンザから十分に回復してから接種すると考えてください。
フルミストは、鼻に噴霧する「経鼻弱毒生インフルエンザワクチン」です。
注射のワクチンとの大きな違いは、弱毒化したワクチンウイルスが鼻の粘膜で増殖することで免疫反応を起こす点です。
一方、タミフルやイナビル、ゾフルーザなどの抗インフルエンザ薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑えるためのお薬です。
簡単にまとめると以下の通りです。
フルミストを接種
↓
鼻の粘膜でワクチンウイルスが限定的に増殖
※抗インフルエンザ薬がこの部分を妨げてしまう可能性があります!
↓
免疫反応が起こる
実際、日本のフルミストの添付文書にも、抗インフルエンザウイルス薬によってワクチンウイルスの増殖が抑制され、フルミストの効果が減弱する可能性が記載されています。
そのため、フルミストでは抗インフルエンザ薬との「間隔」が重要になります。
抗インフルエンザ薬とワクチン接種の関係を整理すると、次のようになります。
| 使用した薬 | 注射ワクチン | フルミスト |
| タミフル®(オセルタミビル) | 薬による間隔は原則不要 | 最終投与後48時間以上 |
| リレンザ®(ザナミビル) | 薬による間隔は原則不要 | 最終投与後48時間以上 |
| ラピアクタ®(ペラミビル) | 薬による間隔は原則不要 | 投与後5日以上 |
| ゾフルーザ®(バロキサビル) | 薬による間隔は原則不要 | 投与後17日以上 |
| イナビル®(ラニナミビル) | 薬による間隔は原則不要 | 明確な公的基準なし※ |
※いずれの場合も、実際の接種時にはインフルエンザから十分に回復していることを確認して判断します。
ここで特に注意したいのが、ゾフルーザです。
2024年度の国内市場流通割合では、ゾフルーザは29.3%を占めており、日本で非常によく使用されている抗インフルエンザ薬の一つです。顆粒製剤も承認されたため、2025年度以降はさらに増えていることが予想されます。
しかし、ゾフルーザ(バロキサビル)は薬剤が比較的長く体内に残るため、米国CDCでは、ゾフルーザを使用してから17日以内はフルミストを接種を控えることが示されています。
一方、タミフルやリレンザの場合は最終投与後48時間です。
そのため、「インフルエンザが治って1週間経ったから、もうフルミストを受けても大丈夫」とは限りません。
インフルエンザになった日だけではなく、「どの薬を使用したのか」を確認することが大切です。
日本ではイナビル(ラニナミビル)も非常によく使用されています。
2024年度の市場流通割合では23.9%を占めています。
しかし、イナビルは日本を中心に使用されている薬剤で、米国CDCが示しているフルミストとの具体的な接種間隔には含まれていません。
日本のフルミストの添付文書では、ラニナミビルを含む抗インフルエンザ薬について、ワクチンウイルスの増殖を抑制し、フルミストの効果を弱める可能性があることが記載されています。
しかし、「イナビルを使用してから○日空ければよい」という具体的な日数については、現時点では明確な公的基準がありません。
そのため、イナビル使用後にフルミストを希望される場合は、使用した時期などを確認したうえで個別に接種時期を判断する必要があります。
反対のケースにも注意が必要です。
たとえば、以下のような場合です。
フルミストを接種
↓
5日後にインフルエンザを発症
↓
タミフルを処方された
CDCでは、フルミスト接種後2週間以内に抗インフルエンザ薬を使用すると、ワクチンウイルスの増殖が抑えられ、フルミストによる十分な免疫が得られない可能性があるとしています。
ただし、インフルエンザを発症して治療が必要な場合には、
「フルミストの効果が弱くなるかもしれないから、治療薬を使わない」
という判断をしてはいけません。
必要なインフルエンザ治療を優先します!
そのうえで、フルミストによる免疫が十分得られなかった可能性を考え、回復後に注射のインフルエンザワクチンなどによる再接種を検討します。
これもよくある質問です。
インフルエンザには複数の型・亜型があります。
一度インフルエンザに感染しても、そのシーズンに別の型・亜型のインフルエンザに感染する可能性があります。実際に当院でも、1シーズンでインフルエンザA型に2回、インフルエンザB型に1回罹患した患者さんもおられました!
そのため、「今年すでにインフルエンザになった=今年のワクチンはもう必要ない」とは限りません。
その年の流行状況、年齢、基礎疾患、これまでのワクチン接種状況などを考慮して判断します。
インフルエンザの薬を5日間内服したか、1日だけ内服したか、吸入薬で治療したかでわかる場合ば非常に多いです。しかし、それも全く分からない場合は、ワクチンの効果を最優先し、ゾフルーザに®︎合わせて約2-3週間以上は空けるようにしましょう。
尚、現在、日本では複数の抗インフルエンザ薬が使用されています。厚生労働省が公表している2024年度の国内市場流通量を、治療に使用できる「人数分」に換算すると、次のようになっていますので参考にされてください。
| 抗インフルエンザ薬 | 代表的な商品名 | 2024年度の市場流通割合 |
| オセルタミビル | タミフル®・後発品 | 43.3% |
| バロキサビル | ゾフルーザ® | 29.3% |
| ラニナミビル | イナビル® | 23.9% |
| ザナミビル | リレンザ® | 2.4% |
| ペラミビル | ラピアクタ® | 1.3% |
※オセルタミビルはカプセル29.5%+ドライシロップ13.8%を合算。
※四捨五入のため合計が100%を超える場合があります。
つまり、日本では、以下の3系統だけで、国内市場流通量の約96%を占めています。
①タミフルなどのオセルタミビル
②ゾフルーザ
③イナビル
ただし、この数字は「インフルエンザ患者の43.3%にオセルタミビルが処方された」という意味ではありません。厚生労働省が集計した市場流通量を、それぞれの薬剤の治療に必要な量から「○万人分」に換算した割合です。実際の患者さん一人ひとりへの処方割合とは異なりますので、その点には注意が必要です。
また、2025年からゾフルーザ®︎の顆粒製剤が保険承認されており、この比率が大きく変化していることが予想されますのでご注意ください。
Q. タミフルを飲み終わった翌日に注射のワクチンはできますか?
抗インフルエンザ薬との相互作用という点では、特別な間隔は必要ありません。
ただし、発熱などがなく、インフルエンザから十分に回復していることを確認して接種します。
Q. タミフルを飲み終わった翌日にフルミストはできますか?
おすすめできません。CDCでは、オセルタミビル(タミフル)は最終投与から48時間以上空けてからフルミストを接種することが示されています。
Q. ゾフルーザを飲んで1週間経ちました。フルミストはできますか?
まだ接種時期として早いと考えます。CDCでは、バロキサビル(ゾフルーザ)使用後は17日以上空けることが示されています。
Q. イナビルを使いました。フルミストはいつできますか?
イナビルについては、フルミスト接種までの具体的な日数を示した確立した公的基準がありません。いつイナビルを使用したのかを接種医に伝え、接種時期をご相談ください。
インフルエンザ治療後のワクチン接種で重要なのは、ご希望のワクチンが「注射なのか、フルミストなのか」そして「どの抗インフルエンザ薬を使用したのか」という2点です。
注射の不活化ワクチンでは、抗インフルエンザ薬そのものを理由に一定期間空ける必要は基本的にありません。
一方、フルミストは生ワクチンのため、抗インフルエンザ薬によってワクチンウイルスの増殖が抑えられ、十分な効果が得られなくなる可能性があります。
以下のような違いになります。
タミフル・リレンザ → 48時間以上
ラピアクタ → 5日以上
ゾフルーザ → 17日以上
また、日本でよく使用されているイナビルについては、具体的な接種間隔が確立されていないため、個別に判断する必要があります。
「インフルエンザが治ったから何日後」という一律の考え方ではなく、使用した薬を確認してワクチンの接種時期を決めることが大切です。
なかの耳鼻科・美容皮ふ科では、注射によるインフルエンザワクチンに加えて、対象となる方には点鼻タイプのインフルエンザワクチン「フルミスト」も行っています。
「先週インフルエンザになったけど接種できる?」
「タミフルを飲んだけどフルミストは大丈夫?」
「ゾフルーザを飲んだ場合はいつから?」
「イナビルを使った場合は?」
など、判断に迷われる場合には、使用したお薬の名前と最後に使用した日を確認してご相談ください。
安全に接種することはもちろん、ワクチンの効果を十分に得るためにも、適切なタイミングで接種することが大切です。
厚生労働省/医薬品医療機器総合機構(PMDA) フルミスト点鼻液 電子化された添付文書
厚生労働省 抗インフルエンザウイルス薬の市場流通割合(令和4~6年度)
Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Influenza Antiviral Medications: Summary for Clinicians.
Centers for Disease Control and Prevention (CDC). ACIP Recommendations Summary: Influenza Vaccination and Influenza Antiviral Medications.
日本小児科学会.インフルエンザ治療・予防指針
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