食事の「最初のひと口」で耳の下が激痛?「ファーストバイト症候群」とは

食事を始めた瞬間、

「最初のひと口を食べると、耳の下がズキッと痛む」

「噛み始めだけ耳の前〜あごのあたりに強い痛みが走る」

「何回か噛んでいると、不思議と痛みが軽くなる」

このような特徴的な症状がある場合、「ファーストバイト症候群(First Bite Syndrome:FBS)」という比較的まれな病気の可能性があります。

名前の通り、食事の“最初のひと口(first bite)”で強い痛みが出ることが大きな特徴です。

耳の下には「耳下腺」という唾液をつくる大きな唾液腺があります。ファーストバイト症候群は、この耳下腺周囲に特徴的な痛みが起こる病気です。

ファーストバイト症候群とは?

ファーストバイト症候群では、

食事を始める

最初のひと口で耳の下〜耳下腺周囲に強い痛み

噛み続けると徐々に痛みが軽くなる

という特徴的な経過をとります。

そして、一度痛みが落ち着いても、しばらく時間を空けて再び食事をすると、また最初のひと口で痛みが出ることがあります。

この「最初が一番痛く、その後軽くなる」という症状は、ファーストバイト症候群を考えるうえで非常に重要なポイントです。

〜どこが痛くなる?〜

痛みが出やすいのは、以下の部分が多いです。

・耳の前
・耳の下
・あごの付け根
・耳下腺周囲
・下あごの後方 など

患者さんによっては、痛みの性状として以下の表現をされることがあります。

電気が走るような痛み

ギューッと締めつけられる感じ

「耳の奥まで響く」

「思わず食べるのを止めてしまうほど痛い」

一方で、数回噛んでいるうちに痛みが弱くなっていくことが特徴です。

〜なぜ「最初のひと口」で痛むのでしょうか?

ファーストバイト症候群の発症には、耳下腺を支配している自律神経、特に交感神経が関係していると考えられています。

食べ物を見たり、口に入れたりすると、唾液を出すために耳下腺が活動を始めます。

ところが、耳下腺に分布する交感神経が手術などによって障害されると、神経支配のバランスが崩れます。

その結果、食事を始めて唾液分泌が急に刺激されたときに、耳下腺の筋上皮細胞などが過剰に反応し、強い痛みにつながるという説が有力です。

特に上頸神経節から耳下腺へ向かう交感神経系の障害が重要と考えられています。

〜どんな人に起こりやすい?

典型的には、頭頸部の手術後に発症します。

特に、以下のような耳下腺へ向かう交感神経に影響する可能性のある手術後にみられることがあります。

・耳下腺周囲の手術
・副咽頭間隙腫瘍の手術
・頸部交感神経周囲の手術
・頭蓋底付近の手術
・頸動脈周囲の手術

もともとファーストバイト症候群は、副咽頭間隙の手術後に生じる特徴的な合併症として広く知られるようになりました。

手術をしていなくても起こることがあります

ここは非常に重要です。

ファーストバイト症候群というと「手術後の病気」というイメージがありますが、手術歴がない方にも起こることがあります。

これを「特発性ファーストバイト症候群(Idiopathic First Bite Syndrome)」などと呼ぶことがあります。

一方、手術歴がないのにファーストバイト症候群のような症状が突然出てきた場合には、単に「体質でしょう」と判断するのではなく、耳下腺などに病変が隠れていないか確認することが重要です。

ファーストバイト症候群と唾石症はどう違う?

ファーストバイト症候群と鑑別が必要な代表的な病気が「唾石症」です。

どちらも「食事をすると耳の下やあご周囲が痛む」ため混同されることがありますが、実は痛みの時間経過がかなり異なります。

<ファーストバイト症候群

  最初のひと口が最も痛い
  ↓
  2口、3口と噛む
  ↓
  徐々に痛みが軽くなる

という経過が特徴です。通常は、唾液腺が大きく腫れることはありません。

<唾石症>

一方、唾石症は唾液の通り道に「石」ができる病気です。

食事をすると唾液がたくさん作られます。

ところが、唾石によって唾液の通り道が塞がれていると、

  食事を始める
  ↓
  唾液がたくさん作られる
  ↓
  石のため唾液が流れにくい
  ↓
  唾液腺が腫れる
  ↓
  痛みが出る

という現象が起こります。

このため、唾石症では「最初のひと口だけ痛い」というより、「食事中に唾液腺が腫れて痛くなる」のが典型的です。

食後もしばらく腫れや痛みが続くことがあります。

「最初のひと口だけ痛い?」それとも「食事中に腫れる?」

両者の違いをまとめると次のようになります。

ファーストバイト症候群唾石症
原因耳下腺の交感神経支配の障害など唾液腺・導管内の結石
痛むタイミング最初のひと口が最も強い食事による唾液分泌に伴って出現
その後噛み続けると軽くなる食事中持続することが多い
食後比較的速やかに消失食後もしばらく続くことがある
腫れ通常目立たない食事に伴う腫れが特徴
主な場所耳の前〜耳の下あごの下・舌の下(顎下腺)が多い
感染基本的になし唾液腺炎を合併することがある

特に覚えておいていただきたいのは、

「最初のひと口が一番痛く、その後は軽くなる」→ ファーストバイト症候群

「食事をすると、あごの下などが腫れて痛くなる」→ 唾石症

という違いです。

唾石症は「耳の下」より「あごの下」に多い

もう一つ重要なのが、唾石のできる場所です。

「唾液腺の石」と聞くと耳下腺に多いような印象を受けるかもしれませんが、実際には顎下腺に圧倒的に多く発生します。

報告によって多少異なりますが、唾石症の頻度は以下の分布になります。

顎下腺:約80~90%
耳下腺:約5~20%
舌下腺・小唾液腺:まれ

そのため、典型的な唾石症では、

「食事をすると、あごの下が腫れる」

「舌の下が痛くなる」

「食事中にあごの下が張ってくる」

「食後しばらくすると腫れが引く」

といった症状がみられます。

なぜ顎下腺に唾石ができやすい?

顎下腺で作られた唾液は、Wharton管(ワルトン管/顎下腺管)という管を通って舌の下に排出されます。

顎下腺に唾石ができやすい理由として、

・Wharton管が比較的長い
・唾液が重力に逆らう方向へ流れる
・顎下腺の唾液は比較的粘稠である
・カルシウムやリン酸などの組成が関係する

などが考えられています。

さらに、顎下腺唾石では腺そのものよりWharton管内に結石が存在するケースが多いことも特徴です。

口に近い場所にある唾石であれば、口腔底を触診することで硬い石を触れることもあります。

耳下腺にも唾石はできます

もちろん、唾石症が耳下腺に起こることもあります。

耳下腺の唾液は、Stensen管(ステノン管/耳下腺管)を通って頬の内側へ排出されます。

ここに唾石ができると、

「食事をすると耳の前が腫れる」

「耳の下〜頬が痛くなる」

「食事が終わると徐々に腫れが引く」

といった症状が起こります。

この場合は痛む場所がファーストバイト症候群と似ているため、「最初だけ痛いのか」「食事中に腫れてくるのか」という違いが重要になります。

「食事をすると耳の下が痛い」=すべてファーストバイト症候群ではありません

食事に関連する耳の下やあご周囲の痛みには、

・ファーストバイト症候群
・唾石症
・急性・慢性唾液腺炎
・耳下腺腫瘍
・顎関節症
・歯科疾患
・三叉神経痛などの神経痛
・咀嚼筋由来の痛み
・副咽頭間隙の病変

など、さまざまな原因があります。

特に、

「どこが痛むのか」
「食事の何口目から痛むのか」
「何分くらい続くのか」
「腫れを伴うのか」

は診断の大切な手がかりになります。

〜耳鼻咽喉科ではどのような検査をする?〜

ファーストバイト症候群そのものを診断できる血液検査や画像検査などがあるわけではありません。

そのため、

「いつ痛むのか」
「どこが痛むのか」
「何口目まで痛いのか」
「食事以外でも痛むのか」
「過去に耳下腺や頸部の手術を受けていないか」

といった問診が非常に重要です。

そのうえで必要に応じて、

・触診
・頸部・耳下腺エコー
・CT
・MRI

などを行い、耳下腺腫瘍や唾石、副咽頭間隙病変などがないか確認します。

特に手術歴がない方や、耳下腺の腫れ・しこりを伴う方では、画像検査を検討することが大切です。

〜治療はどうする?

症状が軽い場合には、まず経過観察を行うことがあります。

ファーストバイト症候群は時間の経過とともに症状が軽くなり、自然に改善するケースがあるためです。近年のシステマティックレビューでも、経過観察で改善する症例が報告されています。

症状が強い場合には、薬物療法が検討されることがあります。

神経障害性疼痛に対して使用される薬などが選択肢になりますが、ファーストバイト症候群に対する薬物治療の効果については報告が一定しておらず、確立された標準薬物療法があるわけではありません。

最近注目されている「ボツリヌストキシン治療」

症状が強く、日常生活や食事に支障がある場合に注目されているのが、耳下腺へのボツリヌストキシンA注射です。

ボツリヌストキシンによってアセチルコリンの放出を抑え、耳下腺への刺激を弱めることで、食事時の痛みを軽減すると考えられています。

2022年のシステマティックレビューでは、22例が解析され、個別の経過が確認できた17例中16例で症状の改善が報告されました。ただし、対象患者数が非常に少なく、比較対照試験もないため、現時点では「確立された治療」とまでは言えません。

さらに近年のレビューでも、保存的治療で自然改善する症例がある一方、反復するボツリヌストキシン治療が比較的早い症状改善につながる可能性が示されています。

※ファーストバイト症候群に対するボツリヌストキシン治療については、保険適応外であり、当院では行なっておりません。

ファーストバイト症候群の方へ 食事のちょっとした工夫

ファーストバイト症候群では、食事の最初のひと口が最も痛く、何口か食べるうちに痛みが軽くなるのが特徴です。

食事のたびに痛みがある方は、次のような工夫を試してみましょう。

最初のひと口は「小さく・ゆっくり」

最初から大きなものを強く噛むのではなく、一口目を小さくして、ゆっくり噛み始めるようにしてみましょう。

急激な刺激を避けながら食事をスタートするのがポイントです。

酸っぱいものは痛みが強くなることも

レモン、梅干し、酢の物、柑橘類などの酸味の強い食品は唾液分泌を強く刺激するため、痛みを誘発・増強することがあります。

「この食べ物を食べると特に痛い」というものがあれば、無理に食べず控えてみましょう。

痛くない側で噛んでみる

片側だけに症状がある場合には、痛くない側でゆっくり噛むことで症状が軽くなる方もいます。

ただし、長期間にわたって片側だけで噛み続ける必要はありません。あくまで症状が強い時期の工夫の一つです。

食事を何度も中断しない

ファーストバイト症候群では、何口か食べると痛みが軽くなっても、数分間休んでから食べ始めると、再び「最初のひと口」の痛みが出ることがあります。

痛みが軽くなってきたら、無理のない範囲でそのまま食事を続けた方が、強い痛みを感じる回数を減らせる可能性があります。

食事のポイント

「最初は小さく、ゆっくり」
「酸っぱいものは控えめに」
「痛くない側で噛んでみる」
「痛みが軽くなったら、なるべく中断しない」

無理をせず、自分が痛みを感じにくい食べ方を見つけることが大切です。

〜こんな症状があれば一度耳鼻咽喉科へ

次のような症状がある場合には、一度耳鼻咽喉科で相談することをおすすめします。

・食事の最初のひと口だけ耳の下が強く痛む
・食べ始めが一番痛く、噛むうちに軽くなる
・耳下腺や頸部の手術後から症状が始まった
・手術歴がないのに同様の症状が続いている
・耳の下に腫れやしこりがある
・痛みが徐々に強くなっている
・顔の動かしにくさなど、ほかの症状を伴う

特に手術歴がないのにファーストバイト症候群様の症状がある場合には、耳下腺やその深部を含めた評価が重要です。

まとめ

ファーストバイト症候群は、「食事の最初のひと口で耳の下に強い痛みが出て、食べ続けると軽くなる」という非常に特徴的な症状を示す病気です。

耳下腺や副咽頭間隙などの手術後に起こることがよく知られていますが、手術歴がない方に発症することもあります。

症状だけである程度推測できる病気ではありますが、耳下腺炎、唾石症、耳下腺腫瘍、神経痛など、似た症状を示す病気との鑑別が重要です。

「食べ始めると毎回耳の下が痛む」

「最初のひと口だけなぜか激痛が走る」

という方は、耳下腺を含めた頭頸部領域を診療する耳鼻咽喉科へご相談ください。

〜参考文献

Chiu AG, et al. Head Neck. 2002

Phillips TJ, et al. Auris Nasus Larynx. 2009

Shaikh NE, et al. Gland Surg. 2022

Marchal F, Dulguerov P. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2003

Koch M, Iro H. Acta Otorhinolaryngol Ital. 2017

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2026年08月29日